森下典子 エッセイ

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2003年9月―NO.12

  


上質の素材を使って
丹念に作られた羊羹の味は
すぐにそれとわかるのである

八木菓子舗の「元祖 三石羊羹」



八木菓子舗の「元祖 三石羊羹」
(画:森下典子)

 梶原秀浩さん(梶原工業の副社長)から、お土産をいただいた。
「これ、北海道でしか売っていないんですよ」
 紙袋を手渡された瞬間、ずしっとした手ごたえがあった。
(……羊羹だ)
 家に帰って箱を開けると、果たして、
「元祖 三石羊羹」
 という、レトロっぽいラベルの棹ものが、大小4本並んでいた。
「日高三石 八木菓子舗」
(へぇー)
 初めて見る名前だった……。
 実は、私は子供のころ、チョコレートが大好物で、小豆ものは苦手だった。祖父母の家に遊びに行くと、いつも餡子のたっぷり入った和菓子が出されるので、餡子というのは、老人の食べ物だと思っていた。
「餡子なんか世の中から消えても、私は痛くも痒くもない」
 と、思っていた。
 ところが、30代になってから、私の体の中で何かが変わった。デパートの人ごみを歩いて疲れた時など、なぜか無性に餡子が食べたくなる。もう体が求めるのである。チョコレートじゃダメなのである。
「あんみつ、食べたいっ」
 甘味処に飛び込んだら、なんと、デパートの紙袋を脇に置いたおばさんや、おばあさんが、隙間なくびっしり席を埋めていて、みんな、紐が解けたようなホッとした顔で「あんみつ」を食べていた……。

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