森下典子 エッセイ

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2003年11月―NO.14

  


ふわふわの「ブタまん」を頬張ると、
自分がものすごく無防備で
幸せそうな顔になるのがわかる
江戸清の「ブタまん」


ホトトギス
(画:森下典子)

 散歩の途中、コンビニに立ち寄ったら、レジのおにいさんが言った。
「温かい『肉まん』はいかがですか?」
 レジの横に置かれたガラスの保温器の中で、白い中華まんじゅうが、だらだらと汗をかいていた。
「いらないわ」と、言いかけたのに、肉まんの白い皮を見たら、なんだか急に空腹を感じた。
 肉まん1個とペットボトルのお茶を買い、近所の公園でかぶりついた。
 たった3口で、あっけなく終わってしまった。中身がほんのちょっぴりなのに、その味がすぐ鼻についた。
「あーあ!」
 がっかりして思わず声が出た。
(肉まんは、こんなものじゃない。本当の肉まんは、もっとずっしりとして、奥が深いんだ)
 私はずっと横浜で暮らしている。幼い頃から中華街の肉まんを食べてきた。我が家では、よく、肉まんが食事代わりになった。その肉まんは、1個食べれば満たされるほど、充実感と幸福感をもたらすものだった。

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