森下典子 エッセイ

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2003年5月―NO.8

  


にぎやかな旨さは、
何となくどこかへ出かけたい
気持ちを呼び起こす
ふっと、レンゲ畑がみたくなった
セブンイレブンの「ご予約弁当」







セブンイレブンの店員さん
(画:森下典子)

 そんな、長い子供時代の刷り込みのせいだろう。私は大人になってもしばらく、コンビニでパンやお弁当を買う時、「今日は忙しいから」と、心の中で言い訳した。だけど、それも独り立ちするまでだった。いつでも好きなだけ、コンビニ弁当を食べられるようになると、すぐにそれに飽きてしまった。こうやって人は「おふくろの味」を求めるようになるのだ。
 それから十数年……。コンビニ弁当は劇的に進化していた。もう一つ、劇的に変化したのは、あれだけ「手作り」にこだわった母が、
「あんた知ってる?セブンイレブンのお弁当は、おいしいのよ」
 などと、言い出したことである。
 先日、私はセブンイレブンの「ご予約弁当」を、母と二人分、注文した。
「こちらがメニューです」
 レジで茶髪のお兄さんが、写真入りのチラシを見せてくれた。
「一番人気あるのは、どれ?」
「うーん、彩り御膳ですね」
「じゃ、彩り御膳と、ちらし寿司」
「彩り御膳は、ご飯をお赤飯に変えられますけど……。うちのお赤飯は評判いいですよ」
「じゃ、お赤飯にしてください」
「お渡しは、何時にしますか?」
 なんと、こちらが指定した受け取り時間に応じて作ってくれるというのである。
2日後の昼、レジのお兄さんから受け取ったお弁当は、上品な掛け紙で包装されていた。折り箱が、発泡スチロール製で妙に軽いことを除けば、コンビニ弁当というより、料理屋の「仕出し」であった。

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