森下典子 エッセイ

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2003年8月―NO.11

  


ソースさえうまければ、
何もかもおいしい
ソースとは、そうゆう魔法の液体なのだ
ブルドックソースの
「ブルドックとんかつソース」


ブルドックソースの「ブルドックとんかつソース」
(画:森下典子)

 考えてみると、私にとって「ブルドックソース」イコール、洋食の味だった。うちでは、トンカツだけでなく、ハンバーグ、コロッケ、エビフライ、牡蠣フライと、洋食ものは何でも、ブルドックソースで食べる。ハンバーグの肉の焦げた匂いは、ソースの甘い香りがあってこそ完成する。びちゃびちゃとソースの染みたコロッケをサンドイッチにすると、パンの中から、ソースの味とコロッケのジャガイモの味がないまぜに出てきて最高だ。洋食だけでなく、お好み焼きやソース焼きそばなどの、鉄板で焦げたソースの匂いは、また格別だ。夏祭りの夜店で、お好み焼きを買った。塗ったソースが焦げ、その上にさらに刷毛でソースを塗って、青海苔がまぶしてあった。太いキャベツの芯がごろんと入っていたが、それがジューシーで甘く、ソースの味とひときわよく合って忘れがたい味だった。結局、ソースを食べているのだ。ソースさえうまければ、何もかもおいしい。ソースとは、そういう魔法の液体なのだ。
 そういえば以前、ヨーロッパでひどいことがあった。レストランに入って、「ウィンナーシュニッツェル」なるものを注文した。「ウィーン風カツレツ」だと聞いていた。出てきたのは、
 紙のように薄く、皿からはみ出るほど大きなカツだった。だけど、ソースがなかった。
「レモンが付いてるでしょ。それを絞ってかけるのよ」
 と、店のおばさんは、ドイツ語で言った(ようだった)。ウィーン風カツレツ、3分の1食べたところで、私は胸やけでダウンした。カツはソースをかけるからこそうまいのだ。そしてソースは、おいしいだけでなくて、胸やけを抑える生薬効果があったのだ。私は店のおばさんに言いたかった。
「ねぇ、ブルドックソース、ちょうだい!」

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