身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2006年2月―NO.40 | |||||
長く厳しい冬を越えて、やっと春は来る。 | |||||
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ホワイトチョコレートの包装紙には、ふきのとうの絵が描かれている。なんでも、日本で初めてホワイトチョコレートを作ったのが六花亭だそうだ。「ホワイト」といっても、ミルクのような黄味を帯びている。……そういえば、春先、解けかけた雪の下から頭を出すふきのとうの花の色は、このホワイトチョコレートに似ている。 銀紙を破いて、板チョコをぽくっと割り、ひとかけら口に入れる。 「……ん」 たちまち、ミルクの甘さが生々しいほどに香る。一瞬、広い大地で草をはむ乳牛が脳裏に浮かんだ。カカオの香りを放ちながら、ふきのとうの色のかけらは、舌の上でバターのようになめらかに溶け消える。私はまた、チョコのかけらを口に入れる。この乳くささ!このなめらかさ!何度も何度も、チョコのかけらを舌に溶かす。 私は、このホワイトチョコレートで、フリーズドライされた苺を包んだ「ストロベリーチョコレート(ホワイト)」も気に入っている。 丸いチョコレートの玉をガリッと齧ると、中から真っ赤な苺の断面が現れる。赤と白の配色が美しい。 フリーズドライされた苺がサクサクと気持ちのいい食感をさせ、同時に、甘酸っぱい香りが、あたりにぷんぷんと立つ。苺の酸味とチョコレートがこれほど合うとは……! ストロベリーチョコレートをサクサク齧るとき、私は、春の甘酸っぱい感情をそのまま取り出して味わっているような気持ちを味わう。 長く厳しい冬を越えて、やっと春は来る。そんな北海道の歓喜が、このチョコレートの中に、詰まっている気がした……。 | |||||
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