森下典子 エッセイ

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2003年3月―NO.6

  


「シウマイ弁当」を食べる時、
自分の幸福の配分について、
考えているのかもしれない
崎陽軒の「シウマイ弁当」


崎陽軒の「シウマイ弁当」
(画:森下典子)

 この季節、私は松田聖子の「赤いスイトピー」を口づさんでは、思わず遠い目になる。長かった冬がやっと終わろうとしている。暖かな春の日差しに誘われて、無性にどこかに出かけたくなるのだ。伊豆もいいし、南房総あたりもいい。
 電車の窓際の席に座って、ミカン畑の向うに真っ青な海が広がったり、目の前が、菜の花の黄色い絨毯になるような、そんな景色を見に行きたい……。
 そういう旅の時、私がいつも買うのは、横浜駅構内にある売店で真っ赤なチャイナドレスの通称「シウマイ娘」さんが売っている崎陽軒のシウマイ弁当である。毎回、
 あとで、いい景色を眺めながら、のんびり食べよー)
と、思って買うのだけれど、「シウマイ娘」さんが、
「はい、どうぞ」
 と、ビニール袋に入れて手渡してくれる弁当の折の底からは、ホカホカとぬくもりが手に伝わってくる。それに、ぷう〜んとシウマイ独特の匂いが漏れてきて、もうとてもたまらず、いつも、電車が発車するやいなや、すぐさま紐をほどき始めてしまう。
 シウマイ弁当を食べる時、私は解いた紐をきれいに折って結ぶ。掛け紙を取り、折の蓋をベラッと開ける。フタの裏には飯粒が数粒、くっついているから、その飯粒を、割り箸で丁寧にこそいで食べ、きれいになった蓋と掛け紙を折箱の底に敷く。そうすると、電車の狭い座席まわりを散らかさずに、食事をすることができるのだ。

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