身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
|
|||||
2004年3月―NO.18 | |||||
幸せって、こんなところにあったのか! | |||||
| |||||
「家に持って帰って、みんなで食べなさい」 と、父が白いベッドの中で言い、見舞いに来た親戚や母などと、家で切り分けて食べた。柔らかく熟れたみずみずしい黄緑色の果肉の味に、私は目くるめいた。カスタードクリームやアイスクリームよりもいい匂いだった。 (世の中には、こんなにおいしいものがあるのか!) 私は、スプーンでぎりぎりまで身を削いで食べ、スプーンで削げなくなると、最後は手でゴンドラ型の皮をベロンと裏返して、前歯でこそいだ。 「典子、やめなさいってば。そんなに薄くすると、恥ずかしくて、皮が捨てられなくなっちゃうじゃない」 と、親戚や母が笑った。 | |||||
Copyright 2003-2024 KAJIWARA INC. All right reserved |