身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2004年3月―NO.18
  3

幸せって、こんなところにあったのか!
幸せって、メロンパンの表面に薄く塗られていたのだ

山崎製パンの「メロンパン」


コーヒーで一服
コーヒーで一服
(画:森下典子)

 だけど、マスクメロンは、滅多に食べることのできない高級品だった。小学校4年になって「おこづかい」をもらうようになると、私は人生最初の自由に使えるカネで、「メロンパン」を買った。
 レモン色と、ほんのり焼けたキツネ色が、たまならくおいしそうで、じわーっと唾液が出てきた。レモン色の表面を覆ったゴワゴワの「かさぶた」をほおばった途端、ふわんと鼻の奥に黄緑色の甘い匂いがよぎった。
(あっ、メロンの匂い)
 一瞬、気が遠くなりそうだった。また、ほおばった。再び、ふわんとメロンが香る・・。幸せって、こんなところにあったのか!幸せって、メロンパンの表面に薄く塗られていたのだ。
その表面のゴワゴワがなくなると、後には、ただの白いパンが残った。中には何も入っていなくて、香りもない。途端につまらなくなった。
 それでも私は「メロンパン」を見るたび、自分の目がトロンとなるのを感じる。
(なんてきれいな色だろう。あの表面のゴワゴワ。あそこが甘くて、素敵な匂いがするんだ)
 人は、たった一度、それがすばらしくおいしかったという記憶があれば、その記憶だけで一生、その食べ物をおいしく食べ続けることができるようにできている動物なのかもしれない。私たちは、単に目の前にあるものを食べるのではなく、記憶のつながり、すべてを味わっているのだ。
 最初は、メロンの代用品のように思っていたメロンパンなのに、本物のメロンを手ごろに食べられるようになった今でも、その魅力は少しも変わらない。
 こうして原稿を書いているうちに、またどうしてもメロンパンが食べたくなって買いに走った。数年前から「メロンパン」がブームになっていたのは知っていたが、正直、これほどまでとは思わなかった。
 なんと、どこのパン屋さんでも、2、3種類ずつ、「メロンパン」を作っている。中にメロンの天然果汁を入れた高級なもの、表面にチョコチップをまぶしたものなど、新しいタイプもいっぱい出ているし、昔ながらの、何も入っていないオーソドックスな「メロンパン」の再現もある。
 オーソドックスなところで、山崎製パンの、
「さわやかなメロンの香りとサクサクしたおいしさ!」というメロンパン(88円)と、「メロンパン とっておき宣言」(100円)の2種類を買ってきた。
 さて、コーヒーでも入れて、おいしい記憶を味わいましょうか。
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