身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2004年4月―NO.19 | |||||
同じ鋳型にはめて焼いているのに、「おやき」は少しずつ個性が違う | |||||
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そういえば、子供のころ、うちの近所の商店街にも、おじさんが店先で大判焼きを焼いている店があった。私の父は会社員だったので、朝、背広姿で「行ってきます」と、出かけてしまうと、一体、会社でどんな仕事をしているのか見えなかった。大判焼きの店は、私が初めて自分の目で見た、大人の仕事場だった。 大判焼きのおじさんは、格好よかった。手際よく、一度にたくさんの大判焼きを焼く。大人も子供も足を止めてはその作業に見入って、 「5つ、ちょうだい」「6個ください」 と、買って行った。 「十勝おはぎ」のガラス張りのコーナーも、いつも見物人が囲んでいる。「鯛焼き」の鯛型のくぼみがズラーッと並んだ台と、「おやき」の丸型のくぼみがズラーッと並んだ台を前に、ベテランらしき女性の店員さんが一人でせっせと焼いている。 まず、鉄板のくぼみの穴に油を塗る。お好み焼き屋でみる、柄の丸い「油引き」で、くぼみを1つ1つ、 クリッ、クリッ、クリッ、クリッ、クリッ…… と、リズミカルに拭いていくのである。 次になにやら、牛の「乳搾り器」に似た道具が登場する。 (……?) 店員さんは、それをやおら鉄板の上にかざしたかと思うと、 チャキ、チャキ、チャキ、チャキ、チャキ…… と、これまたリズミカルに、くぼみの1穴1穴の中に、とろりとした生地のタネを落としていく。落とすタネの量は、レバーの握り加減一つで調節しているのだろうか、実に均等に配分していく。 うす黄色いタネが、黒光りする鉄板の上で、くぼみに沿って、正確な「おやき」の丸い形になる。 ○○○○○○○○○…… ズラーッと並ぶと、なんだか満月の夜の「田毎の月」みたいで美しい。その、「田毎の月」から、 「ふつふつふつふつ……」 と、気泡があがり始める。 | |||||
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