身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2004年8月―NO.23 | |||||
人間は完璧なものに耐えられず、 | |||||
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ところが、水道を開け放ち、勢いよく流れる水で洗い、冷やしながらぬめりを取るうちに、稲庭うどんは姿を変える。 私は、ザルに上げた麺を洗う指先の感触が大好きだ。きれいな川に染物をさらしている景色を思い出す。川で染物をさらすのは、なんて清らかな仕事だろうと思う。 熱々の茹でたての麺は、間もなく生暖かくなり、次第に水が冷たくなって、キュッとしまってくる。すると、どんどん透明になってくる。平べったくて、透けて美しい。まるで、活きのいいイカ刺しみたいだ。 それをザルに上げ、チャッチャ!と水気を切る。それから、クルッと1つかみずつ、束にして盛る。透き通った麺が、つややかに水に濡れて、もう、目からおいしさが入ってくる。 つけ汁は冷たくして、薬味は、ねぎ、青シソ、茗荷、おろし生姜などもいい。 箸でつまんだ稲庭うどんは、流れ落ちる滝みたいだ。それをつけ汁にちょっとくぐらせ、軽くすする。 讃岐うどんのようなごつごつした太い麺は、ずるずるっと盛大な音で思い切りすすらなければならないが、稲庭うどんはちょっと吸うだけで、麺の表面が気持ちよく滑って、ツリっと、口に滑り込んでくる。かぼそくて、透けるほど薄いくせに、歯ざわりがシコシコする。 「ツリッ、ツリツリッ、ツリッ」 と、箸が止まらないのだ。 | |||||
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