身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2004年12月―NO.27
  3

強く甘い果物の精のような香りが、ゆらりと鼻に抜けた。
くらっとするようないい香りだった

不二家の「サバラン」


ケーキサーバー
ケーキサーバー
(画:森下典子)

 私はそれ以後、「デコレーションケーキ」や「イチゴのショートケーキ」を卒業し、ケーキといえば、「不二家のサバラン」一筋になった。
 (そういえば、その後一度だけ、母が家で「サバラン」を作ってくれたことがあった。カチカチに固くなったフランスパンを切り、ラム酒入りの甘いシロップに漬け込むのである。なんだか「干し椎茸」を水で戻す要領に似ていて、柔らかくなったフランスパンの皮の食感も、ちょっと椎茸っぽかった。そして、その時、母が結婚前に通っていた料理教室で、「サバラン」を習っていたことを知った。)
 「サバラン」は、大人のケーキである。フォークで押すと、スポンジの穴という穴から、お酒の入った甘いおつゆが、一斉に、じゅわーっと、しみ出るのだ……。そう、ちょうど、こんなふうに……。
 私は、事務用スポンジを、指で何度も押しながら、たまらなくなり、翌日の取材の帰りに、不二家に行った。
 クリスマスのイルミネーションに飾られた店先に、ぺこちゃんの天使が立っていた。
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