身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2005年8月―NO.34
  3

ん〜、「すぐき」と茶漬けはよく似合う
土井志ば漬本舗の「すぐききざみ」


土井の志ば漬本舗の「すぐききざみ」
土井の志ば漬本舗の「すぐききざみ」
(画:森下典子)

 私がいつもデパートで買うのは、「土井の志ば漬本舗」の「すぐききざみ」という商品だが、実は、今年2月、たまたま見た深夜のテレビ番組「松本紳助」で、これが話題になっていた。タレントの島田紳助さんが言ったのだ。
「土井のすぐきは、一番うまいでー」
(……おっ、)
「こないだも、茶漬け好きな人と会いましてん。その人が言うんですわ。『私もう、茶漬けには、決まってるんですわ。すぐきですねん』
『どこの?』
『すぐきは土井でっせ』
 うわーって涙流して握手した。インドの山奥で日本人と出会ったくらい感動した」
 これを聞いて、私も、親戚に出会ったような親しみを覚えた。
 テレビの影響は大きい。その後、デパートにある「土井の志ば漬本舗」の前を通ったら、「すぐききざみ」に、
「テレビで話題!」
 というポップが立っていた。
「すぐききざみ」の袋の封を切って、鼻を近づけると、その発酵の匂いに感覚が目覚めるような思いがして、思わず、
「はーっ!」
 と、深呼吸したくなる。その酸味は、梅干やお酢の酸っぱさとは違い、ヨーグルトのようにまろやかで、さわやかだ。
「すぐき」を口に入れると、いっせいに唾液が湧いて出る。薄甘い健康な唾液がこんこんと湧くのだ。夏バテで鈍っていた味覚がよみがえる。ストレスで磨り減っていた脳の中の細胞が、復活するような気がする。
「よし……」
 私はやおら台所に立って、ご飯をよそい、湯をわかす。好きな煎茶を丁寧に入れる。
 ピカピカ光る白いご飯の上に、「すぐききざみ」を乗せて、その上から、煎茶をゆっくりとまわしかける。
 箸で、ご飯と「すぐき」を一緒にくずして、
 さらさら……
 と、かきこむ。細かく刻まれた「すぐき」は大根に似て、噛むとサクサクと音がする。まろやかな酸味と、発酵した深い香り。
 さらさら……
(ん〜、「すぐき」と茶漬けはよく似合う)
 その時、どこかで風鈴が鳴った。
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