身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2005年8月―NO.34 | |||||
ん〜、「すぐき」と茶漬けはよく似合う | |||||
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「土井のすぐきは、一番うまいでー」 (……おっ、) 「こないだも、茶漬け好きな人と会いましてん。その人が言うんですわ。『私もう、茶漬けには、決まってるんですわ。すぐきですねん』 『どこの?』 『すぐきは土井でっせ』 うわーって涙流して握手した。インドの山奥で日本人と出会ったくらい感動した」 これを聞いて、私も、親戚に出会ったような親しみを覚えた。 テレビの影響は大きい。その後、デパートにある「土井の志ば漬本舗」の前を通ったら、「すぐききざみ」に、 「テレビで話題!」 というポップが立っていた。 「すぐききざみ」の袋の封を切って、鼻を近づけると、その発酵の匂いに感覚が目覚めるような思いがして、思わず、 「はーっ!」 と、深呼吸したくなる。その酸味は、梅干やお酢の酸っぱさとは違い、ヨーグルトのようにまろやかで、さわやかだ。 「すぐき」を口に入れると、いっせいに唾液が湧いて出る。薄甘い健康な唾液がこんこんと湧くのだ。夏バテで鈍っていた味覚がよみがえる。ストレスで磨り減っていた脳の中の細胞が、復活するような気がする。 「よし……」 私はやおら台所に立って、ご飯をよそい、湯をわかす。好きな煎茶を丁寧に入れる。 ピカピカ光る白いご飯の上に、「すぐききざみ」を乗せて、その上から、煎茶をゆっくりとまわしかける。 箸で、ご飯と「すぐき」を一緒にくずして、 さらさら…… と、かきこむ。細かく刻まれた「すぐき」は大根に似て、噛むとサクサクと音がする。まろやかな酸味と、発酵した深い香り。 さらさら…… (ん〜、「すぐき」と茶漬けはよく似合う) その時、どこかで風鈴が鳴った。 | |||||
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