身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2006年1月―NO.39
  3

「いやぁー、さすがは伊勢の赤福だ」
と、どこかで父の声が聞こえた気がした

赤福の「赤福」


「赤福」の包みの中にこんなきれいな絵が入っていた
「赤福」の包みの中に
こんなきれいな絵が入っていた

(画:森下典子)

 父が亡くなって十年も過ぎた正月、
「いっぺん、お伊勢さんに行って見たい」
 という母を連れて、私は伊勢神宮の初詣バスツアーに参加した。大晦日の深夜に新宿を発って、途中、フェリーで伊勢湾を渡り、伊勢神宮に着いたのは元旦の午前中だった。
 広い駐車場に、全国津々浦々からやってきたバスがすでにびっしり並んでいて、ドアが開くたびに、ツアーの旗を先頭にぞろぞろと善男善女が降りてくる。その人波に流されるように、私たちも大きな鳥居をくぐった。
 無事、お参りをすませ、流れのままに帰り道を歩いていると、善男善女の行列はそのまま「おかげ横丁」へ続き、一軒の大きな店にぞろぞろと吸い込まれて行く。
 大きな金文字の「赤福」という看板が目に入った途端、私と母は、思わずニヤッと顔を見合わせた。
 盆に乗って、お茶と赤福3個が運ばれてきた。お茶の香ばしさと、赤福の上質な甘さに、バス旅行の疲れがすーっと消えた。
「いやぁー、さすがは伊勢の赤福だ」
 と、どこかで父の声が聞こえた気がした。
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