2006年9月―NO.47
ほっこりした「芋きん」を温め直すと、人恋しくなるような香ばしさがたつ。 その香りを嗅ぐたびに、 私は、風に揺れるススキのようだったシュウちゃんを思い出す。 満願堂の「芋きん」
満願堂の「芋きん」 (画:森下典子)
その翌月、また大型台風が吹き荒れた。台風一過の秋晴れの午後、シュウちゃんが一人でやってきて、うちの玄関にひょろりと立っていた。 「あのぅ……雨樋、大丈夫だったかと思って」 「あら、古い家だから、心配してくれたのね。ありがとう」 と、母は言った。それからも、シュウちゃんは、「通りかかったから」と言っては、うちの様子を見に来て、母が造っている花壇の土を入れ替えてくれたり、高くて危険な天窓のガラスを拭いたりしてくれた。母を手伝ってくれた後は、お茶を飲んで帰った。あまりしゃべらないけれど、彼はなぜか、わが家の居間が気に入っているらしく、くつろいでいるように見えた。 ある日、彼が紙包みを持ってきた。 「……あら、これ何?」 「満願堂の芋きん。食べたこと、ないすか?」 包みを開けると、6個入っていた。母と私と、3人で、2個ずつ食べようと買ってきたのだろう。そのまま皿に載せようとすると、シュウちゃんが、ぼそっと言った。 「温めた方がうまいっす」 彼に言われて、オーブントースターで温めた。温めなおした「芋きん」の皮は、パリッとしていた。3人で、熱々を食べた。 皮に歯をたてる。弾力ある皮がぶちっと破れると、焼き芋がかすかに焦げたような、皮の香ばしさが鼻腔を駆け上った。 「ん〜っ!」 皮の中は、みっしりと黄色である。その黄色に目を凝らす。毛羽立ったように白っぽく見えるところと、蜜を含んだ焼き芋のようにしっとりと透けて見えるところがあり、ほわ〜んと湯気が立っている。はふはふとかぶりつく。芋餡のきめは細かく滑らかだった。サツマイモの自然な甘さ。さっぱりとした後味。 「これ、おいしいね〜!」 「気に入ってもらえて、よかったっす」