2007年5月―NO.55
これ以上引くものがないほど引き算をした麺である あえて究極の引き算で勝負したのには、 厳選した素材への自信と、強いポリシーが感じられる 雲仙きのこ本舗の「養々麺」
雲仙きのこ本舗の「養々麺」 (画:森下典子)
箸を汁に入れ、すくい上げた。しなやかな細麺が、行儀よく束になって箸にしなだれかかる。ツルツルっとすすった。 (…………) この歯ごたえ!こんなに細い麺なのに、細さの中にコシがある。まるで、華奢な手弱女(たおやめ)の気質の中に、しっかりとした芯があるみたいだ。 そして、薄味の汁は、薄味であるがゆえに、ダシや醤油の産地にまでこだわったことが、ちゃんとわかる。素材の香りがする。繊細なうえにも繊細。上品で奥行きがある。 きのこの具材、特に、えのきの柄の、ザクザクとした歯ごたえが、麺の細さとあいまって、いいハーモニーである。 そして、湯気がゆれるたびに、際立つ七味の、なんと彩り豊かで、饒舌な香りだろうか。この七味の香りまで、ちゃんと味の計算がされているのだ。 「養々麺」は、これ以上引くものがないほど引き算をした麺である。これほど、あっさりしていると、一つ間違えれば「つまらない味」になる危険だってある。それなのに、あえて究極の引き算で勝負したのには、厳選した素材への自信と、強いポリシーが感じられる。 このどんぶりの中の、何一つ、脂っこいものや、味の濃いものはない。どれもが控えめで、どれもがほのかである。カロリーだってないに等しいだろう……。それなのに、味の計算が行き届き、どんぶりを飲み干した時、額ににじんだ汗をぬぐうと、私は、 「あーっ!」 と、満足の声をあげていた。 以来、うちでは時々、「養々麺」を取り寄せて食べている。食欲のない日や、小腹のすいた時などに、これほど適した食べ物はない。私は締め切りで徹夜の時など、夜更けに食べることがあるが、決して胃にもたれない。 熱湯を注ぎ、どんぶりに蓋をして待つ3分、 「まだかな、まだかな〜?」 と、時々蓋を上げてのぞきながら、 「今日は、ちょっと硬めにしようかな……でも、まだちょっと早いかな……」 などと思うのも、また嬉しい。