身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2007年8月―NO.58

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涼しさ、辛さ、酸っぱさ、甘み……
歯ごたえにうなり、刺激を追いかけ、過激から逃げて安らぎ、また麺をすする
器の中でそれを繰り返し、食べ終わった時の、えもいわれぬ涼やかな満足感……

ぴょんぴょん舎の「盛岡冷麺」


うちわ
うちわ
(画:森下典子)

 暑い。猛暑が続いて、ごはんを食べる元気も失せている。こういう時には、ひんやりした細長いものをツルツルとすすりたい。そうめん、冷たい稲庭うどん、冷やし中華などもいい。だけど、もっと夏にふさわしい麺がある……。
  あれは高校生の夏休みだった。泊まりに行った岩手県の親戚の家で、従姉が言った。
「典ちゃん、今日のお昼、冷麺にしようかと思うんだけど」
「……」
 その時、「冷麺」という耳慣れない言葉を聞いて私は、
(へ〜、こっちでは、冷やし中華のことを「冷麺」って呼ぶのか……)
 と、頭の中で勝手に「翻訳」した。
「冷麺、好き?」
「うん、大好き」
 なにせ、幼い頃から、岩手に来ると「言葉」に不自由した。発音もちがえば、物の呼び名が違うこともある。ちょっとした「外国」だった。
「辛いの大丈夫?」
 と、従姉に聞かれた時、一瞬、ん?と思ったけれど、辛子の量を聞かれたのだろうと思い、
「うん、大丈夫」
 と答えた。
  私は、ハムや薄焼き卵やキュウリの細切りが円錐状に載って、皿の端に黄色い練り辛子のついた、あのお馴染みの冷やし中華を想像していた。ところが、出てきたのは、見たことのない麺だった。

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