2009年1月―NO.75
なんだろう、この安堵感。 埋まり込みながら、 顔がすっかり緩んでしまうのだ。 まい泉の「ヒレかつサンド」
まい泉の「ヒレかつサンド」 (画:森下典子)
私は小学生のころから「ヒレかつ」に目がなかった。 今でも、デパ地下や駅弁屋さんで「まい泉」の「ヒレかつサンド」を見かけると、なんだか素通りができない。一番小さい「ヒレかつサンド」は3切れ入って388円。何かちょっとだけつまみたい時に、とってもいいのである。 手のひらに乗っかる小さなパッケージもお行儀がよくて好きだ。中には、お手拭きと、「ヒレかつサンド」の他には余計なものが一切入っていない。シンプルである。 「まい泉」の「ヒレかつサンド」の蓋をあけると、私はいつも美しい切り口に見惚れてしまう。かすかにピンク色を帯びた、ムチッと厚いヒレ肉の存在感。明るいキツネ色に揚がった衣にまんべんなく塗りまぶされたソースのこっくりとした色。そのソースの色がわずかににじんだパンのふわふわとした肌理。 指先に挟んで、口に運ぶ……。 ソースの甘味と衣、やわらかいヒレ肉の食感、パンの柔らかさに、私は埋まり込む。 メリメリメリメリと埋まり込む。 ああ!いつもの「まい泉」の「ヒレかつサンド」である。 (うふ〜ん) と、幸せなため息が鼻に抜ける。 なんだろう、この安堵感。埋まり込みながら、顔がすっかり緩んでしまうのだ。 この間、いつものようにデパ地下で買った「まい泉」の「ヒレかつサンド」をつまみながらコーヒーを飲んでいたら、突然、何の前触れもなく、あの日のことを思い出した。