身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2009年3月―NO.77

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鯛焼きって、なんでこんなにうまいんだろう。
どら焼きも、今川焼きも、人形焼きもあるのに、
なぜか鯛焼きでなくてはダメな時があるのだ。 不思議だ……。

新世界の「鯛焼き」


レトロな看板
レトロな看板
(画:森下典子)

 「六角橋商店街」は、東横線・白楽駅からすぐの場所にある。戦前からの商店街で、戦後はバラックの集まる闇市だったそうだ。「仲見世通り」と呼ばれる長さ500メートルほどのアーケードの中は、今でも人がやっとすれ違うほどの狭い路地の両側に乾物屋、八百屋、洋品店、下駄屋、肉屋、金物屋などがひしめきあっている。沿線の商店街がヨーロッパの街並みのように石畳やレンガ造りでおシャレにリニューアルしていく中、ここは再開発から取り残され、今だに昭和30年代の木造の店舗も多い。
 私は2歳の時からすぐ近所に暮らしていて、買い物する時はいつも「六角橋」だったので、この商店街をもう50年間も眺めてきた。
(今、「50年」と書いて、自分自身でびっくりした……)
  思えば、この商店街には長い「迷い」の時代があった気がする。老朽化が進む中で「時代に置いてきぼりになってはいけない」と焦っているように見えた。けれど、そのままどんどん取り残されていくうちに、いつしか、世の中が昭和30年代を懐かしみ始めたのだ。そうなると、古さは逆に「売り」になった。レトロな町並みを作らなくても、ここはいまだに「三丁目の夕日」の時代のまんまである。ここ10年の「仲見世通り」を見ていると、「昭和の風情を残した町」というコンセプトで悟りを開いた、というか、開き直ったように見える。そこに新しく、中国食品やアジア雑貨の店が入り、「昭和」と「アジア」が混然一体となって、他の商店街にはない不思議な空気を醸し出している。

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