2009年8月―NO.82
これが「わらびもち」なら、私が今まで食べてきたのはなんだったんだろう? こ寿々の「わらびもち」
こ寿々の「わらびもち」 (画:森下典子)
こ寿々の「わらびもち」は、一切れが大ぶりである。皿に載せ、黒蜜をとろーり、とろーりとまわしかける。もちの上からあふれた黒蜜は、肌を伝ってなだれ落ち、皿の上にたまる。それに黄粉をまぶす。一切れに楊枝をプスリと刺し、楊枝の先に頼りなく引っかかったのを、そーっと口に入れた。 「…………」 (これが「わらびもち」なら、私が今まで食べてきたのはなんだったんだろう?) と、思った。へなへなと頼りないもののどこに、こんな歯ごたえがあったのだろう。ふにゃふにゃと正体なく柔らかく、手にも刃物にも、女々しくべたべたとひっつく。そのくせ、ひとたび口に入れ、歯を立てた途端、快い食感に様変わりし、潔く、さわやかに、ひんやりツルンと喉を滑り落ちていった。そして後には、 「あぁ、もう少し食べたい……」 という未練が残る。 そのみずみずしく濡れる半透明の肌を思い浮かべ、私は夢二の女を気取って、窓辺にそっともたれかかる。