身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2009年11月―NO.84

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生醤油とやげん堀の七味がかかっている。
そりゃあ、とまらないのはわかっている。また罪深いものを知ってしまった……。

よ兵衛の「生醤油唐辛子」



よ兵衛の「生醤油唐辛子」
(画:森下典子)

「あ、お煎餅!」
 買い物から帰ってきた母が、袋入りのお煎餅をこっそり戸棚にしまおうとしたのを私が見とがめた。
「見つかっちゃった」
「見つかっちゃったじゃないわよ。お煎餅は絶対買って来ないでって、私がいつも口を酸っぱくして言ってるじゃん」
 私は母を責めた。母はヘンな言い訳をする。
「でもさ、割れ煎餅だから、罪が浅いかなと思って」
「割れてたって、煎餅は煎餅だよ」
 私は怒りながら、ガサガサと袋を開けた。中から出てきたのは、さまざまな形に割れた醤油煎餅である。割れ口に醤油が濃く染みて、ぷうんといい匂いがする。
 だめだ……。とても抵抗できない……。
「ほらー!割れ煎餅は、却って罪が深いんだよ」
 私はブリブリと怒りながら、煎餅をバリバリとかじり始める。
「まったく、こんなもん買ってきて!お茶いれてよ」
  これは私の病気だ。煎餅にとりつかれる。途中でやめることができない。なくなるまで全部食べきってしまうのだ。

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