身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2010年3月―NO.88

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粒々がしっかりしていて、先にふわんと日本酒が香り、
それからピリッと辛く、そして最後にほのかに柚子が香るのだ。

やまやの「辛子明太子」


椿
やまやの「辛子明太子」
(画:森下典子)

 けれど、やがて小学校高学年になって学校の勉強が忙しくなると、私は祖母の家にも行かなくなり、潮干狩りのことも忘れてしまった。中学受験、大学受験。それから外国へ行ったり、仕事をしたり、恋をしたり……人生が多忙になった。その間に祖母もこの世を去り、20年近くが過ぎた。
 ふと、潮干狩りを思い出すようになったのは、40代半ばになってからである。特に春の初め、ストレスが溜まって神経の疲れが抜けなくなり、夜眠れないようになると、祖母と潮風に吹かれながらアサリを掘った記憶がまざまざとよみがえった。
「ああ、潮干狩りに行きたい!」
  と、心から思うけれど、子どもの頃、祖母と潮干狩りした浜はどこだったのかわからない。

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