身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2004年2月―NO.17
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「どん兵衛」自身の味が好きだ。
「どん兵衛きつねうどん」は、「どん兵衛きつねうどん」なのだ。

日清食品の「どん兵衛きつねうどん」


やかん
やかん
(画:森下典子)

 「どん兵衛きつねうどん」は、もちろん本物の「きつねうどん」ではない。彼の言う「ニセモノ」だ。けれど私は、本物の「きつねうどん」の代わりとしてでなく、「どん兵衛」自身の味が好きだ。「きつねうどん」は「きつねうどん」。「どん兵衛きつねうどん」は「どん兵衛きつねうどん」なのだ。
 「どん兵衛」の容器は軽い。振ると、カサコソと乾いた音がする。なんだか、プラモデルの箱みたいだ。ビニールをはがし、発泡スチロールの丼に接着された紙の蓋をペリペリと半分くらいまではがすと、さつま揚げのような色の、大きな乾いた「おあげ」と、その下に、やや幅の広いうどんの乾燥麺が見える。
 この段階で、私は、
(そうそう、この「おあげ」がうまいのよ。噛むと、汁がじわーっとしみ出るんだ。この、平べったくてウェーブした麺もうまいのよ)
 と、うずうずしてしまう。粉末スープの袋の封を切る手ももどかしく、サラサラと中に振り入れて、容器についているお湯のラインまで、きっちり熱湯を注ぐ。紙蓋がめくれ上がらないように、蓋の上に、皿で重しをしたりする。
私は「どん兵衛」の5分が待ちきれない。たいがい、3分半か、4分で、蓋を開けてしまう。そして、ちょっと早めの方が、麺のコシがいいような気もする。
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