身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2005年1月―NO.28 | |||||
黒豆の皮の香ばしさ、黒豆の奥の繊細な甘み、 | |||||
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羊羹に包丁を入れると、ぎゅっと身のしまった感触がした。それはまさに、丹波黒豆のもっちりした歯ごたえと同じだった。スパッと切った断面のあちこちに、黒豆の甘露煮の断面が○の模様を見せている。 その黒い断面を見ているだけで、目がうるんでくるようだった。 湯をわかし、いそいそと煎茶を入れた。 菓子楊枝で、黒豆羊羹の角をぎゅーっと押し切り、口に入れて、もちもちと噛んだ。 (あまり甘くない……) と、思った次の瞬間、一足遅れて、爆発的な風味がやってきた。 「……!」 黒豆の皮の香ばしさ。黒豆の奥の繊細な甘み。そして、もろもろの養分がぎゅっとつまった充実感。賢いような、強いような、深いような「黒豆の命」そのものの味がした。 その「黒豆の命」を練り上げた羊羹のあちこちに混ざった甘露煮が、時おり、つるんと滑り出て、歯の間で柔らかくつぶれると、とろけるような甘さが広がる。 長いため息を吐いて、私は思わず、 「おいしーっ」 と、うめいた。 正月、母の友達からの年賀状に、こう書いてあった。 「いただいた黒豆の羊羹、すごくおいしかったです。主人が『さすが、丹波の黒豆だ!』を連発しておりました。今年もどうぞよろしく」 | |||||
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