身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2005年4月―NO.31
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私はこれを食べるたびに、
いつもバージョンアップの進化の過程を 頭の中で反芻してしまう

立田野の「白玉クリームあんみつ」


「白玉あんみつ」にアイスクリームをプラスして・・・
「白玉あんみつ」にアイスクリームをプラスして・・・
(画:森下典子)

 初めて東急文化会館に入ったのは、小学校5年生の時である。母に連れられて代々木にある中学受験のための進学教室に行った。その帰り道、代々木から渋谷まで来て、東横線の改札の前で、母はちょっと立ち止まり、
「何か食べて行こうか」
 と、通路を歩き出した。映画の大きな看板が見え、その先は東急文化会館2階の「文化特選街」につながっていた。婦人服や傘が売られている店の間を通り、ずーっと奥の突き当りを曲がった目立たない場所に喫茶店があった。
「銀座立田野」
 ショーウィンドウに「ところてん」「釜飯」「お雑煮」「いそべ巻き」などが飾ってあった。席につくなり、店員さんが、お茶とおしぼりを持ってきてくれた。
 進学塾で緊張してテストを受け、人ごみを歩いて疲れていたせいもあっただろう。子供ながら、私はこの奥まった店に、紐の解けたようなくつろぎを感じた。
 母と「白玉クリームあんみつ」を注文した。
「白玉クリームあんみつ」……私はこれを食べるたびに、いつもバージョンアップの進化の過程を頭の中で反芻してしまう。
 基本形はおそらく、寒天と豆に黒蜜をかけただけの「豆かん」であろう。その「豆かん」に、シロップ漬けのフルーツや求肥などのトッピングが加わったものが「みつまめ」。
その「みつまめ」に、こしあんを入れたら美味しかろうと言うことで「あんみつ」が生まれ、さらに「あんみつ」に、白玉だんごを乗せたものが「白玉あんみつ」。その「白玉あんみつ」に豪勢にアイスクリームまで入れちゃったのが「白玉クリームあんみつ」……。
 そう考えながら食べるせいだろうか。小鉢に盛られた「白玉クリームあんみつ」には「贅沢三昧」の味がする。
 あの日、店員さんが運んできてくれた陶器の小鉢には、橙色のアンズや、緑色とピンクの求肥が見え、白玉団子がつやつや光っていた。餡子の隣にはアイスクリームが渦を巻いていた。小さなピッチャーに入った黒蜜をとろりとかけ、相撲の軍配みたいな形のお匙で、小鉢の底の方に沈んだ寒天を掘り出しながら掬って口に運んだ。
 歯が、ひんやりした寒天に埋まるブニブニとした感触がした。濡れて光る白玉は、匙で掬おうとすると、きょろきょろと逃げるが、噛むと、もちもちした。小鉢の中で、黒蜜とあんこ、あんことアイスクリームが混ざり合い、まろやかな甘味のるつぼと化して、私を、
「よしよし、よしよし」
 と、甘やかしてくれるのだった。
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