身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2005年5月―NO.32
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「ん〜」 そのやさしい食感にほだされ、
思わず、 自分の小鼻がふくらむのがわかった

清月堂の「おとし文」


筆と文鎮
筆と文鎮
(画:森下典子)

 5月の連休中、友達と誘い合って、近所の緑地に散歩にでかけた。雑木林の中を歩いていたら、足元に奇妙なものが転がっているのに気づいた。
「……?」
 くるくると筒状に巻かれた木の葉である。よく見ると、あちこちに落ちている。長さも太さもまちまちだが、多くは7,8センチくらいの長さで、煙草よりやや太い。最初は子供のいたずらかと思った。
「ううん。虫が産卵した葉っぱよ。『オトシブミ』っていう昆虫」
 と、友達が教えてくれた。
 オトシブミという虫は、クリやコナラなどの広葉樹の葉っぱをくるくると丸めて巣をつくり、その中に卵を産み付けて葉っぱを切り、地上に落とす習性なのだそうだ。
 「おとし文」と言えば、いにしえの昔、身分違いの恋人が、内緒の恋文を、思う相手のそばにそれとなく落としたり、おおっぴらに言うのをはばかる内容の落書きを、誰の仕業かわからないように手紙に書いて路上に落としたりしたものだと聞いたことがある。
 当時の手紙は巻紙で、くるくると筒状に巻かれていた。だから、くるくると葉っぱを巻いて落とす昆虫を「オトシブミ」……。うまい名前を付けたものである。
 私の中学時代、教室で流行ったのも「おとし文」の一種と言っていいだろうか?
 それは巻紙ではなく、ピンポン玉くらいの小ささにくちゃくちゃに丸められた紙で、授業中、教室のあちこちで、ぽーん、ぽーんと、よく投げ交わされていた。
 先生が黒板に向かっていると、突然、前の席にいる一人の生徒がくるりと後ろを向き、アンダースローで、紙の玉を投げてくるのだ。それをキャッチし、机の下で広げて、シワをのばして読み、また投げる。
「A先生は、30歳を過ぎてからおたふく風邪をひいたので、インポテンツになった可能性がある」
「B先生は、C子先生と、デキてる。二人の密会を目撃した人がいる」
「D先生の下着の色は、紫だ」
 など、内容は、先生の私生活や噂が多かった。
 ある時、キャッチした紙を広げたら、先生の似顔絵が描いてあった。あまりに特徴をよくつかんでいたので、つい、声を出して吹き出してしまった。
「森下、おまえ今、何やってた!」
 先生に紙を没収され、
「誰だ、こんなもの書いたのは!」
 と、こってり叱られた思い出がある……。
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