身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2005年7月―NO.33 | |||||
夏になると自然に、 「ナタデココ」や「タピオカ」などの、 | |||||
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最近、よく買うのは、安曇野食品工房の「ココナッツミルク、タピオカ入り」だ。ココナッツミルクの底に、イクラくらいの丸い半透明なタピオカの粒々が沈んでいる。 スプーンですくって食べると、うす甘いココナッツミルクと一緒に、粒々がいっぱい口に入る。それを噛もうとするが、丸い粒々はキョロキョロしてなかなか噛めないのである。あっちからこっち、こっちからあっちと、すばしこくすり抜ける。なんだか、おたまじゃくしを追いかけているような気分になる。 「待て、待て。こいつ!」 タピオカの粒は丸いから、捕まえたと思っても、歯と歯の間をつるりと滑って、キョロキョロ逃げる。やっと一粒追いつめ、舌で逃げないように押さえこんで、噛んでみる。 ぷちっ、と弾力あるものが潰れた食感はあるが、これといった味や香りはない。それでも、粒を噛まずにはいられない。これは、動物としての本能なのだろうか。 小さなタピオカの粒々たちは、 「こっちだ、こっちだ!」 「捕まえられるもんなら、捕まえてみな」 とでも言うように、あっちでもこっちでも、こざかしくキョロキョロする。こっちは苛立って、チリチリする。 「待て、このやろう!」 と、追いつめ、捕まえ、ぷちっ! 荷物の梱包に使うエアークッションの、あのぷちぷちを、端から1つ残らず潰したくなる心境に似ている。エアークッションは逃げないが、タピオカは逃げまわるのだ。 逃げるタピオカを捕まえ、噛んでも噛んでも、到底、全部のタピオカは噛みきれない。 (いつまで噛めば、いいんだろう?) いつも途中で口が疲れて諦め、そのままゴクンと飲むことになる。どうも納得がいかない。 ああ、一度、タピオカを全部噛みつぶしてみたい! | |||||
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