身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2005年9月―NO.35 | |||||
独特の香りが漂って、つい、 | |||||
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「お向かいの佐藤さんの萩が、ちらほら咲き始めたよ」 と、言った。今年の夏は、猛暑だったけれど、お盆を過ぎた頃から、急に空が高くなり、雲の形が秋になった。 (いい夏だったなぁ〜) と、空を見上げる私に、 「ねえ、なんだか、おいしい和菓子、食べたくない?」 と、母が誘うように言った。 「うん」 毎年、この季節になると、体が「芋」や「栗」のほっこりとした味を欲しがる。 そうだ、「黄金芋」を取り寄せよう、と思った。 東京・人形町にある「壽屋」の名物、「黄金芋」(こがねいも)は、一口サイズの和菓子である。まずは、その姿をとくと見て欲しい…。 一本一本、黄色い薄紙に包まれて、その紙の両端が、飴玉包みにねじってある。私は、この包みを目にしただけで、いとおしくなる。 包み紙が、実にいいのだ。幼稚園のお遊戯会で壁を飾っていたちり紙の花のように透けていて、お医者さんの粉薬を包む紙のように、パリパリしている。 包み紙の色は、昔の油紙みたいな、きっぱりと濃い黄色で、その黄色の真ん中に、茶色い筆文字で、「黄金芋」と、したためてある。 鄙びたような、田舎くさいような、温かいような包み紙……。それが実に、「芋」らしく、いかにもおいしそうに見る者の感性を誘惑するのだ。 成功したデザインというものは、その場所にピタリと馴染んで一体化し、まるでそこから自然発生したかのように見えるもので、もはや他の何とも替えることはできないというが、「黄金芋」の包み紙は、まさにその典型だ。 | |||||
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