身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子 |
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2005年9月―NO.35 | |||||
独特の香りが漂って、つい、 | |||||
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「ふふふ、これこれ」 と、顔がほころぶ。包みの中から、ころんと現れたのは、可愛らしいミニチュアの「焼き芋」なのだ。 その形。皮の質感。焼け焦げの色。割れた皮のひびの具合。どこから見ても、「焼き芋」そっくりである。 指でつまんで折ると、ほっこりと二つに割れ、中に焼き芋の黄金色が見える……。 ところが、意外なことに、この和菓子には、芋は一切使われていないという。芋の中身は、白いんげん豆に卵黄を加えた黄味餡。その外側に、芋の皮に見立てた皮をつけて形成し、それを、細い針金を通して宙吊りにして焼くと言う。 中の黄味餡が、しっとりとして、実に焼き芋っぽい。焼けた芋の皮と中身の間に、かすかに隙間ができて、二つにほっこり割った時、皮が破れやすくなる感じなど、実にいい。 芋を一切使わずに、「焼き芋」のおいしさ、愛らしさをミニチュアにして表現している。和菓子とは、つくづく芸術的な食べ物である。 しかし、なんと言っても「黄金芋」の最大の特徴は、その香りだ。黄色い包み紙をほどく前から、独特の香りが漂って、つい、 「ん〜」 と、深呼吸してしまう。 「焼き芋」の皮に、ココア色のパウダーがまぶされ、黄色い紙の上に、ぱらぱらとこぼれて、溜まる。 | |||||
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