2006年5月―NO.43
たべものは、「もういっぱいだ」と思うより、 「もう少し食べたい」と、感じるくらいの方が、はるかにおいしさが勝る。 空也の「空也もなか」
銀座並木通りにある「空也」 (画:森下典子)
銀座・並木通りは、今や、シャネル、グッチ、ルイ・ヴィトンなどがずらりと並んだブランドストリートである。まばゆいショウウィンドウの中には、高級ハンドバッグや高級婦人服、宝石などが並んでいる。 ところが、この世界屈指のブランドストリートの只中に、「もなか」で建ったビルがある。 場所は、シャネルの並び……。ビルとビルの隙間に挟まれて建つ、鉛筆のようなビルである。 京都の町屋は、間口が狭く、奥行きが「うなぎの寝床」のように深いが、このビルを見ると、私はいつも、 (町屋を縦にしたみたいだ) と、思う。 ビルの入り口が引き戸になっていて、 「空也もなか」 という藍染の暖簾がかかっている。 カラカラと戸を開けると、そこは普通の民家のような玄関のたたきで、すぐ目の前がお帳場である。 「予約した森下です」 と、告げると、ずらりと並んだ予約者の紙袋の中から、私の名前のついたのを探しだしてくれる。 「はい、森下様。もなか10個入りを1箱ですね。ご自宅用の箱でよろしかったですね?それでは、950円いただきます」 もなか1個は100円足らず……。銀座のど真ん中で、もなかを売って、よく成り立つものだと思う。 ところが、この「空也もなか」、予約なしではまず買えないことで有名なのだ。知らない人が午後2時ごろ、のこのこ買いに行くと、 「本日のもなかは売り切れました」 という張り紙に出くわす。毎日作る量が決まっていて、予約だけで売り切れてしまうのだ。 私が代金を払っている間にも、二組のお客がもなかを受け取りにやってきて、10箱、20 箱と紙袋に下げて行く。 お歳暮、お中元のシーズンともなると、 「年内はもう売り切れです」 と、あっさり断られる。だから、「もなか」でビルが建ったのである。