2006年8月―NO.46
サイダーの水は、ガラスのように透明で、美しい。 それが華やかに泡をまとうと、 なんだか、めでたいような、嬉しいような、景気のいい気持ちになった。 アサヒ飲料の「三ツ矢サイダー」
シャンパンのオープナー (画:森下典子)
先日、知人の結婚披露パーティーに出席した。乾杯の前の祝辞に立ったのは、新郎の会社の上司だ。 「ご両家の皆様、本日は」 と、スピーチが始まり、目の前のグラスに次々にシャンパンが注がれた。 背の高いグラスの中に白い泡がたち、それがさーっと消えると、美しい金色のシャンパンになる。そして、グラスの中に、 「……」「……」「……」 と、無数の気泡があがる。 私はシャンパンが大好きなのだ。 (あー、早くスピーチ終わらないかなぁ。早くシャンパン飲みたいよう) と、思いながら、「……」と次々に上る気泡を見つめる。 やっと、スピーチが終わる。 「では、お二人の末永い幸福を祝して、乾杯!」 「乾杯!」 と、口々に言って、グラスを高く上げ、それからガラスの縁に口を近づける。 すると、鼻先でかすかに、 「ピチピチ、ピチピチ」 と、気泡がはじけ、ふわんと、フルーツに似た酒の香りが漂う。 そういえば、昔、クリスマスになると、母がデコレーションケーキと一緒に「シャンパンもどき」をよく買ってくれた。アルコールの入っていない「子供用シャンパン」みたいな飲み物で、確か、「シャンメリー」と、言った。 シャンパンによく似た小さな瓶で、栓を開けると「ポン!」と、音がし、しゅわしゅわーっと景気よく白い泡がたって、よくテーブルの上にふきこぼれた。 子供心にも、なんだか、お祝いの時には、「ポン!」と音がして、泡のたつ、華やかなものを飲みたいと思っていた。 ラムネも好きだった。お祭りの時などに、冷えたやつを買ってもらった。首に手ぬぐいを掛けた夜店のおじさんが、 「プシュ!」 と、口のビー玉を押し込んでくれる。しゅわーっと必ず泡がふきこぼれた。それを縁台に座って飲んだ。 私はラムネのガラス瓶の、あの緑がかった淡いブルーが好きだった。胴がくびれていて、飲み口が丸い。その丸みに口をつけて瓶を傾けると、ラムネの中でビー球が動いてコロコロと鳴る。 ビー球がだんだん飲み口に近づいていくと、玉が栓になって、ラムネがせき止められてしまう。そしたら瓶を振ってビー玉を落とし、またコロコロと音を聞きながら飲む。 だから、ラムネは少しずつしか飲めなかった。あの緑がかったブルーのガラス瓶の中のビー玉を、時々透かして見ながら、少しずつ飲むのが良かったのだ。