2006年8月―NO.46
サイダーの水は、ガラスのように透明で、美しい。 それが華やかに泡をまとうと、 なんだか、めでたいような、嬉しいような、景気のいい気持ちになった。 アサヒ飲料の「三ツ矢サイダー」
アサヒ飲料の「三ツ矢サイダー」 (画:森下典子)
会社から帰った父が、冷えたビールで毎晩、小さな祝杯をあげ、うめいていたように、私は「三ツ矢サイダー」で、 「あーーーっ」 と、喉を鳴らした。サイダーは、子供のビールであり、シャンパンだったのかもしれない。 炭酸の泡は、人を華やかな祝祭の気分にしてくれる……。だけど、やがて、反動のように、来るものがあるのだ。ゲップである。 「三ツ矢サイダー」のゲップは、けっこうきつい。鼻の付け根あたりに、突き上げてくる。ゲップのパンチをくらって、ちょっと涙ぐんだりする。 そんな「三ツ矢サイダー」を、ぐびぐび飲んだ私の青春も、いつしか泡のごとくはかなく消えた。今の私は、番茶ばかりすすっている。 だけど、たまに、パーティーの席で、金色のシャンパンの中に、 「……」「……」「……」 と、気泡が元気にたっているのを見ると思う。 私がシャンパンが大好きなのは、これが高級なお酒だからじゃない。本当は、これが「大人の三ツ矢サイダー」だからなのだ、と……。