2006年8月―NO.46
サイダーの水は、ガラスのように透明で、美しい。 それが華やかに泡をまとうと、 なんだか、めでたいような、嬉しいような、景気のいい気持ちになった。 アサヒ飲料の「三ツ矢サイダー」
アサヒ飲料の「三ツ矢サイダー」 (画:森下典子)
だけど、私の青春は、なんと言っても「三ツ矢サイダー」だった。特に、中学入学から大学を卒業するまでの約10年間、どれほど「三ツ矢サイダー」を飲んだかわからない。わが人生の中で、最も活力に満ちあふれた「太陽の季節」だった。 学校から帰ってくると、冷蔵庫からキリキリと冷えた「三ツ矢サイダー」を取り出し、封を開ける。封を切った途端、シュッ!とガスが抜ける音がして、いっせいに細かい気泡が、上を目指して立ちのぼる。 サイダーの水は、ガラスのように透明で、美しい。それが華やかに泡をまとうと、なんだか、めでたいような、嬉しいような、景気のいい気持ちになった。コップにそそぐと、さーっと泡立ち、それが消える。 コップの中で、「……」「……」「……」と、気泡の粒が騒ぎたつのを眺める。 鼻先にコップを近づけると、気泡たちのかすかな会話が聞こえる。 「ぷちぷちぷち」 「ぱちぱちぱち」 無数の気泡の会話が一緒になって、 「さわさわさわーっ」 という音になり、そして、泡のはじけるピチピチとした感触と、えもいわれぬ甘いフルーツの香りが、ふわ〜んと、鼻をくすぐる。 研ぎ澄まされたガラスのように透明な水を、ぐびりぐびりと飲むと、炭酸の刺激が喉を刺し、冷たさが食道を駆け抜ける。