2006年10月―NO.48
もちもち噛むと、栗とむし羊羹とが、 実に自然で豊かな味わいに調和する その調和の中に、常に絶えることなく 竹皮の芳ばしさが漂い香る 松葉屋の「月よみ山路」
羊羹を押しのける程の栗の大きさ (画:森下典子)
「いただきまーす」 竹皮をはがすのは、この時である……。 ペラペラはがすと、餡生地の表面に、キャタピラの跡のように、竹皮の跡が細かい筋になってびっしりと残っている。その向こうに、大きな栗が透けて見える 一口齧る……。竹皮の繊維の跡が、食感として気持ちよく歯に伝わる。 そして、そして……、羊羹にうつった竹皮のこの味、芳ばしさ! もっちりとした栗むし羊羹の、この弾力……。羊羹としては、甘さひかえめだが、もちもち噛むと、栗とむし羊羹とが、互いをバランスよく引き立て合い、実に自然で豊かな味わいに調和する。 その調和の中に、常に絶えることなく竹皮の芳ばしさが漂い香るのだ。それは、落ち葉が厚く降り積もった秋の野山の芳ばしさに似ている。どこかで焚き火をし、焼き芋を焦がしているような、懐かしい匂いだ。 そして、この栗むし羊羹には、竹皮から染み出た、かすかなアクの風味がまつわりついている。アクの風味は、春の焼き筍の味にも似ている。 私は、この匂いを嗅ぐと、血の流れがサラサラと浄化される気がする。 ああ、日本の秋は豊かなり!