2006年12月―NO.50
スイスチョコレートと、スポンジと、クルミのバランスがピタリと合って、 贅沢な味がする 自分がキラキラと輝く世界にいるような、 幸せを感じるのだ トップスの「チョコレートケーキ」
トップスの「チョコレートケーキ」 (画:森下典子)
赤坂のTBS会館地下にあった「トップス&サクソン」に初めて入ったのは大学3年の時。 「ここ、芸能人がよく来るらしいよ。友達がここでユーミンを見たって」 と、連れて行ってくれたのは、同じ国文科のクラスメートだった。 「えっ、ユーミン!?ホント?!」 TBSの近くだということ。ユーミンが来る店だということ。入り口の雰囲気から、内装まで……。なんだかすべてがときめいて見えた。 クラスメートは「通」らしく教えてくれた。 「サクソンのカレーを食べて、デザートにトップスのチョコレートケーキを食べるとおいしいのよ」 「へぇ〜」 彼女の勧めた通り、カレーとチョコレートケーキをセットで注文した。 まず、見慣れぬ漬物のようなものが入った丸い入れ物が5,6種類も目の前に並んだ。 「……?」 「これ全部、トッピングよ」 「……トッピング?」 カレーのお供は、福神漬かラッキョウに決まっていた時代である。そういうのを「トッピング」ということを初めて知った。 ライスも、ただのご飯じゃなく、バターライス。皿の上に、薄く敷くようによそってあって、上に干しブドウと、カリカリの香ばしいフライドオニオンが載っていた。薄い鍋の蓋を開けて覗くと、おかわり用のライスも入っていた。魔法のランプみたいなカレーの入れ物を傾け、ライスに回しかける。こっくりと煮込まれた褐色のカレーはまろやかで、ものすごくリッチな味に思えた。 (以来、私は家でカレーライスを食べる時も、ご飯のよそい方にこだわるようになった。今でも、カレーライスの時、ご飯を皿に薄く敷くと、リッチな味になるような気がする) カレーの後に、いよいよ「トップスのチョコレートケーキ」が登場した。皿の上に、小さく4分の1カット。 コチコチと硬いチョコレートのコーティングではない。コーヒー牛乳みたいな色の、軽いチョコレートで包まれたケーキである。その断面から、中の、3段になったスポンジの淡いクリーム色の層が見える。