2007年3月―NO.53
この味は、忘れがたい。 ヘラにこびりついたごはんまで、歯でこそいで食べたことは言うまでもない 木やだんごの「五平餅」と木曽ごへ〜本舗の「ごへ〜餅」
木やだんごの「五平餅」 (画:森下典子)
お花見シーズンが近づいてくると、私は「串」に刺さったものが無性に食べたくなる。真っ青な空の下、草に敷いたござに両足を投げ出し、何か串に刺さったものを頬張りたいのである。 (「みたらし団子」かなぁ〜) とも思う。……が、「みたらし団子」の甘辛さでは、なにかもの足りない気がする。もっと、こっくりとしたディープな味のものが、どこかにあった気がするのだ。 「……あっ、そうだ、五平餅だっ!」 と、ある時、膝を叩いた。 私が「五平餅」を食べたのは、1度きりである。高校一年の夏休みだった。同級生数人で、妻籠に旅行した。帰りのバスの出発時間に、一人だけ、なかなか来ない友達がいた。 「ごめ〜ん!遅くなっちゃった!」 息せき切ってバスに飛び込んできた彼女は、手に発泡スチロールの皿を捧げ持っていた。 「これ焼いてもらってたの」 その皿に、見慣れぬ食べ物が載っていた。 棒アイスの棒よりも幅広の、平べったい串に、小判型にのした大きな餅が刺さっている。表面には味噌色のタレがまんべんなく塗りつけられ、それがいい具合にこんがり焦げていた。香ばしい匂いが、ふわ〜んと、バスの車内に漂って、私は反射的に、胃袋がよじれるのを感じた。 「五平餅だよ〜」 「五平餅?」 「このへんの名物だって」 初めて聞く名前だった。 「一口、食べさせてあげる」 そう言われて、串を受け取り、扁平な餅の、楕円形の肩のあたりを齧った。 「…………」 味噌ダレの中に、クルミのような、胡麻のような、何かのナッツのような風味がこっくりと混じりあい、それらが渾然一体となって炭火にじりじりとあぶられ、かすかに焦げ、えもいわれぬ懐かしい香ばしさで餅にからみついていた。そして、その「餅」は、つぶしたご飯を平べったい棒に練りつけたものであった。