身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2007年4月―NO.54

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いっぺん食べたら忘れられない、強烈なインパクトのおせんべい
うまい餡子を食べた後は、お茶の味が体にしみ入る気がする

柴舟小出の「柴舟」と中田屋の「きんつば」


柴舟小出の「柴舟」
柴舟小出の「柴舟」
(画:森下典子)

 私は「物産展」というものが好きで、新聞のちらしで見ては、ちょくちょくデパートに足を運んでいる。
 物産展の会場は、いつ行っても非日常だ。平日の朝っぱらから大漁旗やのぼりが掲げられ、お祭りみたいに賑わっている。
「ちょっとちょっと、お客さん、だまされたと思って、これ、いっぺん食べてみて」
 と、試食の小皿や、試飲用の紙コップなどが、右から左から差し出され、
「今日が最終日ですから、うんとおまけしときますよ」
 などと勧められるのも結構楽しい。
 もともと地方の選りすぐりの名産品や伝統のブランドが集まっているのだから、品物は粒ぞろいだ。そして、しばしば、知らなかった地方の名品に出会えたりする。
 先日、横浜タカシマヤで開かれていた「加賀・能登・金沢の名品展」に出かけた。金沢は私の憧れの街である。……とは、言ったものの、実は、金沢は一度行ったきりだ。その一度も、記録的な豪雪と重なり、電車が動かず、宿に籠もりっきりだった。けれど、雪に閉ざされた宿で食べたものはどれも温かく、おいしく、美しかった。それがかえって金沢の印象を深くした。だから、「金沢」と聞くと、今でも、
「いい街だったなあ〜」
 と、ついつい遠い目になる。
 その後、お茶の稽古を通じて、金沢の和菓子文化を知った。
 その中に、いっぺん食べたら忘れられない、強烈なインパクトのおせんべいがあった……。
 上品な和紙の袋に一枚ずつ包装されていて、袋から出すと、小判型のおせんべいである。それが一枚一枚反り返っていて、表面に白砂糖らしきものがうっすらと塗ってある……。
 手で割って、ひとかけら口に入れ、バリッ!と噛んだ。その途端、
(……辛い!)
 意外な味に驚いた。唐辛子の辛さではない。これは生姜である。それもかなり強烈だ。舌がじんじんとして、やがてカーッと来る。体がじんわり汗をかく。
(変な味だな……)
 苦手だった。ところが、何度かお稽古でいただくうちに、やがて、この味に馴染みを覚え、ある日、生姜の風味に爽やかさを感じるようになった。
 それが柴舟小出の「柴舟」である……。柴を積んだ舟が、朝もやの中、川を下る姿をイメージしたのだそうで、そう聞いて改めて眺めると、程よく反り返った小判型も、うっすら雪をはいたような白さも、シンプルで美しい。
  ある程度の厚みがあって、齧りでがある。バリッ!と噛むと、ふわ〜んと生姜の清涼感が口に広がり、その向こうに、ほのかな甘さがある。やがて、じんじんと辛さがやってくる。大人の味だ……。

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