2007年11月―NO.61
なるほど、これは何もいらない。醤油もネギも鰹節も邪魔になる。 豆腐って、そういうものだったのか!と、膝を打った。 太田豆腐店の「竹豆腐」
太田豆腐店の「竹豆腐」 (画:森下典子)
竹が最もみずみずしく輝く季節は、秋である。今年の秋、私は「青竹」を堪能した。 「よかったら、竹灯籠まつりに参加しない?」 と、里山を守る活動をしている友達から誘われた。場所は、横浜市内の里山の竹林。その竹林に、竹で作った灯籠を立て、いっせいに火をともすのだという。 その数、なんと7000基! 竹林に7000もの灯籠がともったら、さぞかし幻想的だろう。 「いっせいに火をつけなきゃいけないからボランティアが大勢必要なのよ」 「面白そう」 「やるやる!」 友達と2人、気軽に誘いに応じた。 まつりの当日、現場に行くと、監督から「チャッカマン」を手渡された。 「このあたり一帯をお願いします」 監督が指さした場所は、崖のように切り立った急斜面。そこにずらーっと設置された竹灯籠の中のキャンドルに、1つ1つ点火する。 足場の悪い斜面によじ登り、スパイダーマンのように張りついて、物も言わずに、カチッ……。カチッ……。カチッ……。カチッ……。 単純作業に熱中すると、まわりが見えなくなる性分である。私はどんな険しい断崖の灯籠にも、1つ残らず火をともそうと、枝をくぐり、根っこをまたぎ、何度かすべり落ちながら、点火を続けた。 どのくらい時間が過ぎただろう。気がついたら、もう日がとっぷりと暮れて、 「わぁ!きれいー!」 と、見物客の声がした。崖に貼り付いたまま後ろを振り返って驚いた。あたりは一面「ともし火」の海である。天の川の中にいるみたいだった。尺八の音色が聞こえる。もう「まつり」は始まっていた。 崖を降り、体を伸ばしたら、無理な体勢が祟って腰が痛い。友達と2人、へとへとになり、まつりの会場で生ビールを飲んだ。 その生ビールは、青竹のジョッキに注がれていた。 「お疲れさまー」 「かんぱーい!」 乾いた喉に、冷えたビールの刺激が痛いほどしみて、気持ちいい。いつもと味が違うと思った。 「いい匂い……」 スーっと鼻が通るような清潔な香り。おいしい水を味わう時に、舌蕾に感じるような、ほのかな甘み。 「これって青竹の匂いなんだね」 孟宗竹の節のあたりが白く粉をふいたように曇っている。私は、みずみずしい竹の緑色を改めて眺めた。 その竹のジョッキは、今も台所のテーブルの上にある。鮮やかだった緑は、すこし黄色っぽく乾いたけれど、鼻を近づけ匂いをかぐと、かすかにいい香りがする……。