身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2007年11月―NO.61

  3

なるほど、これは何もいらない。醤油もネギも鰹節も邪魔になる。
豆腐って、そういうものだったのか!と、膝を打った。

太田豆腐店の「竹豆腐」


太田豆腐店の「竹豆腐」
太田豆腐店の「竹豆腐」

(画:森下典子)

 私が醤油をたらそうとすると、
「あっ、何もかけないで。そのまま食べてごらんなさいよ」
 と、どこからか声がかかった。
(豆腐なんだから、やっぱり醤油とネギと鰹節をかけたい)
 と、思いながらも、言われた通り、何もつけず、そのまま塗りものの匙ですくってみた。
やや固めの豆腐である。何もつけず匙に乗せると、まるでムースに見える。そのまま、口に運んだ。
(…………)
 最初はわからない。少し後から、ほんのりとした甘味がやってきた。
(…………!)
 さらに遅れて、それが濃厚な滋味であることがわかった。大豆の養分がぎゅっと凝縮して、まるでモッツァレラチーズである。
 そのモッツァレラチーズの水分に、ほのかに青竹が香る。スーッと鼻が通るような、あの清浄な匂いだ……。
 なるほど、これは何もいらない。醤油もネギも鰹節も邪魔になる。豆腐って、そういうものだったのか!と、膝を打った。
「一体、どこの店の豆腐?」
 さっきの上紙を改めて読んだ。住所は、仙台の秋保。「太田豆腐店」とある。
パーティーの参加者たちは、この上紙をこっそりポケットに入れて持ち帰った。私もあれ以後、何度か、「竹豆腐」を取り寄せた。
  今年ほど、「青竹」を堪能した秋はない。

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