2008年8月―NO.70
十勝産の小豆を丹念に晒したという餡子は サラサラとして、甘味も抑えられ、実にさっぱりとしている 口の中に、小豆の風味が豊かに香った 徳太樓の「きんつば」
徳太樓の「きんつば」 (画:森下典子)
初めて週刊誌の記事を書いた時、原稿用紙に目を通した編集者Aさんが言ったことを今でも覚えている。たった一言。 「わかりにくい」 練りに練って、推敲を重ね、徹夜で書き上げた原稿だった。 Aさんは、私が書いた原稿を基に、新たに別の原稿をサラサラと書き上げた。 「これ、読んでみ」 その記事には、難しい慣用句も凝った言い回しも、1つもなく、小学生にもわかる平易な文章だった。それなのに、登場人物たちが起き上がり、ちょこちょこ動き回る様子が頭の中で見える。面白さがストレートに、純粋に伝わってきた。内容は同じなのに、まるで印象が違った。私は自分が書いた原稿とのあまりの違いに唖然とした。 「もっとわかりやすく書かないかんよ。論文と違うんやから。名文を書く必要はない。かえって、稚拙な文の方が、本質が伝わりやすい場合もあるしな」 実は、凝った文章を書いて「あんた文才あるね」と、ほめられたいという野心があった。そんな自分の心の内を見透かされた気がして恥ずかしかった。 「ま、これに懲りんと、また書いて」 そう言うと、Aさんは、私の原稿をゴミ箱にポイと投げ込んだ。 その時から、 「わかりやすく書かないかんよ」 というAさんの言葉は、いつも私の頭のどこかに生きている……。