2008年8月―NO.70
十勝産の小豆を丹念に晒したという餡子は サラサラとして、甘味も抑えられ、実にさっぱりとしている 口の中に、小豆の風味が豊かに香った 徳太樓の「きんつば」
徳太樓の「きんつば」 (画:森下典子)
今週、どうしても食べたくなったものがあって、浅草に買い物に行った。店の場所は浅草観音の裏。雨の浅草は、どこか懐かしかった。 5年ほど前、さる小料理屋の女将さんから、 「お母さんと食べてください」 と、「きんつば」をいただいた。店の名は「徳太樓」。正直、それまで「きんつば」を食べたいと思ったことがなかったが、小ぶりで、まわりの白い皮も薄い。手で割ると、餡子の中で、ピカピカの小豆の粒が光っていた。十勝産の小豆を丹念に晒したという餡子はサラサラとして、甘味も抑えられ、実にさっぱりとしている。口の中に、小豆の風味が豊かに香った。 「もう一個、食べたいな」 それから私は「きんつば」が好きになった。 久しぶりに母と食べた「徳太樓のきんつば」は、驚くほど味が澄んでいた。 その澄んだ味をかみしめながら、私はまたAさんの言葉を思い出した。 「わかりやすく書かないかんよ」 それは、丁寧に晒したこの餡子のように、読者に伝わりやすく、余計なものをそぎ落とした「澄んだ文章」のことかもしれない。 文も味も、すべては同じだ。