身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
HOME

 


 

2008年9月―NO.71

1  

さらさらとした、なんてきれいな味だろう!
餡をどれほど丹念に晒せば、この「さらさら」になるだろう
きめ細かい舌触りを追いかけるように、ちょっと遅れて、小豆の風味がやってくる

山田屋の「山田屋まんじゅう」


山田屋の「山田屋まんじゅう」
山田屋の「山田屋まんじゅう」
(画:森下典子)

 「ねりいろ」「けしいろ」「うらはいろ」「はなだ」「こきいろ」「なんどいろ」……。これらは、日本の伝統的な色である。昔の日本には、なんと300種類近い色の名前があったのだそうだ。「十二単(ひとえ)」を重ねた平安時代だけでなく、江戸時代にも、茶色と鼠色が大流行し、「四十八茶、百鼠」と言われるほどの新色が生まれたという。
 「ちょうじ茶」「唐茶」「金茶」「なんど茶」「銀ねず」「さびねず」「灰赤」「深川ねず」……と名前を聞いてもどんな色なのか、私には思い浮かばないが、『日本の色辞典』などをみると、色鉛筆の12色の名前ではとうてい表現のできない微妙で深みのある色がずらーっと並んでいる。江戸は、さぞかしシックな大人文化の時代だったのだろう。
 さて、話題はガラリと変わるが、先日、お仕事先の松山からお帰りになったばかりという方から、お土産の品を頂戴した。
「松山には、他にも有名なお菓子があるんですけどね、このまんじゅうが、なかなかおいしいんです」
 と、何やら自信を感じさせる口ぶりで、差し出した包みに、
「山田屋まんじゅう」
 と、書いてある。
 山田まんじゅう……?
 私の経験では、こういう単純明快な、一見ドッてことなさそうな名前の和菓子に、案外、「名作」が多い。下手に凝った名前など付けず、あえて正面突破的に「山田屋まんじゅう」と来たところに、なにか、並々ならぬものを感じる。

次へ



Copyright 2003-2024 KAJIWARA INC. All right reserved