身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2008年11月―NO.73

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さらさらした卵風味の黄身餡が、極上の小豆餡と口の中で混じり合い、
そこに栗の味と歯触りが入り混じる。この調和……。

大吾の「爾比久良」


大吾の「爾比久良」
大吾の「爾比久良」
(画:森下典子)

 その晩、さっそく「爾比久良」をいただくことになった。紙袋の中に、由緒を書いた紙が入っていた。
「献上品 武蔵野銘菓」
「昭和天皇御訪米の折、御調達献上」
 と、書いてある。
 「爾比久良」とは古い地名で、埼玉県新座市のあたりは、かつて「爾比久良」と呼ばれていたのだそうだ。
 由緒に目を通し、さて、おもむろに紙包みを開く。すると、
「おー、」
 卵色の直方体がデンと鎮座している。
 一辺6センチ角。厚みは3センチ。
 上から横から眺めてみる……。
 天井の中央部に、窓のような正方形の窪みが切ってある他は、壁、壁、壁。一切飾りがない。角はピラミッドのようにキリリとした直角である。
 倉庫か、超現代建築か、はたまた古代遺跡のようにも見える。
 和菓子としてはかなり大きいが、これは4等分にして食べるものらしい。
 大理石のように平らな卵色の肌は、ひんやりとして、しっとりときめ細かい。
 その肌にナイフを入れると、まるでチーズを押し切るようなねっとりとした弾力があって、スパっと切れた。

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