身近な生活の中のおいしさあれこれを1ヶ月に1度お届けします 森下典子
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2010年6月―NO.91

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私は、自分が水羊羹の中にいるように感じた。
菊家の「水羊羹」


菊家の「水羊羹」
菊家の「水羊羹」
(画:森下典子)

 私の本棚の最上段の一番右には、今でも向田さんの『思い出トランプ』『眠る杯』『父の詫び状』『夜中の薔薇』が並んでいる。
 向田さんは、人の心の床板をはぎ取り、床下の薄墨色の妖しい世界を見せてくれた。向田さんの描く言葉はエッジが鮮やかに立ち、角も切口もスパッと見事だ。まるで、水羊羹の切口と角のようだった。

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