2010年10月―NO.95
むっちり、もっちりと噛みごたえがあり、西京味噌の香ばしい甘みやほのかな塩気、 ゴマの風味が口の中で混じり合って、優しさに包まれ、うっとりとなった。 松屋常盤の「味噌松風」
松屋常盤の「味噌松風」 (画:森下典子)
その「松屋常盤」という店をこの目で見たのは、お茶の稽古を始めて20年近くたった頃だった。一緒に稽古をしている社中の女の子と3人で、京都に出かけた帰り、お土産に「味噌松風」と、上生菓子の「きんとん」を買った。あらかじめ電話で予約をし、向かったのは京都御所から目と鼻の先ほどの静かな町だった。 「あ、ここだ!」 同行の女の子が指差したのは、小さな白いのれんだった。 どれほど立派で気遅れのするような店構えだろうと想像していたが、拍子抜けするほど普通の、小さな民家の入り口だった。カラカラと引き戸をあけた途端、思わず「おっ!」と引いた。玄関先がすぐお店になっていて、京都の老舗を特集した雑誌などで何度も見たことのあるおじいさんが、雑誌で見たのと同じ白い上っ張りを着て、雑誌で見たのと同じ笑顔で、にこにこと座っていらした。 名前を言うと、「はいはい」と、すぐに用意してあった包みを出してくれる。模様のない白い紙に、 「御菓子調進所 平安京堺町御門南入 松屋常盤」 とだけ、書いてある。 実は、お茶の先生に、 「お土産に『松屋常盤の味噌松風』を買ってきますね」 と、言った時、先生から教えられたことがある。 「松屋常盤に行ったら、お店のご主人に、『今日、これから横浜へ帰るんですよ』って言ってごらんなさい」 教わった通り、言ってみた。すると、おじいさんが、 「さよか。ほな、これをお帰りの電車の中ででもどうぞ」 と、にこやかに紙袋を手渡してくれた。後で中をのぞくと、味噌松風を箱詰めする時に出た、切れ端がいっぱい入っていた。